高齢の親が突然入院すると、家族は不安と焦りでいっぱいになります。
仕事の調整、兄弟間の連絡、病院とのやりとり…。
あっという間に時間が過ぎ、気がつくと必要な手続きが後回しになってしまうことも多いものです。
しかし、入院直後のタイミングで「これだけは押さえておく」というポイントを確認しておくことで、後々の負担やトラブル、さらには相続や不動産の問題まで見通しやすくなります。ここでは、FPの視点から、家族が最初に取り組むべき5つの項目を分かりやすく整理して解説します。
1. 預金口座の管理状況と、入院費の支払い方法を明確にする
親が入院すると、まずぶつかるのが「お金をどう管理するか」という問題です。
入院費、生活費、保険料、光熱費、固定資産税など、支払いは待ってくれません。
特に注意すべきは「本人の口座から家族が勝手にお金を下ろせない」という点です。
認知症や意識障害で意思表示ができない状態になると、銀行は家族でも原則引き出しに応じません。
こんなトラブルが多い
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親の口座の場所が分からない
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ネットバンキングのID/パスワードが不明
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自動引き落としに頼っていて、止まった時に気づけない
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延命治療などで入院費が長期化し、まとまった支払いが必要になる
確認すべきポイント
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どの銀行に口座があるか
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通帳・カードの保管場所
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インターネットバンキングの利用状況
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今後の支払い方法(家族が立替、代理人カードの作成など)
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将来に備えるなら、家族信託・任意後見の検討
「親が元気なうちから情報を共有しておくこと」が、最も大きな安心につながります。
2. 医療保険・生命保険の加入状況をすぐに確認する
入院した時に忘れがちなのが「保険金の請求」。
特に高齢の方は、保険を複数加入していることが多く、「どれが入院給付の対象なのか」が分かりにくいという相談もよくあります。
よくある実務トラブル
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証券の場所が分からない
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本人もどの保険に入っているか覚えていない
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請求期限が過ぎてしまい、保険金を取り逃す
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そもそも書類の準備を誰が、どこまでやるのか曖昧
確認すべきポイント
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加入保険会社(生命保険・医療保険・共済など)
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入院給付金の対象か(1日いくら、何日からなど)
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必要書類(診断書、入退院証明書など)
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申請期間
保険は「請求しないと1円も戻ってこない」仕組みです。
入院のタイミングは、“保険の棚卸し”にも絶好の機会になります。
3. 自宅・不動産の名義と今後の管理方法を整理する
親が入院すると、自宅や土地の管理が必要になります。
郵便物、固定資産税、庭の管理、空き家対策。
さらに、本人が退院できず施設へ入る場合は「自宅をどうするか」という問題も出てきます。
ここで重要なのが 不動産の名義と権利関係 です。
こんなケースが多い
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名義が亡くなった祖父のまま
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共有名義で兄弟全員の同意が必要
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抵当権が残っていて売却できない
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本人の判断能力が低下し、売却の手続きが進められない
確認すべきポイント
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名義人は誰か
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抵当権や借入の有無
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固定資産税の納付状況
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売却や賃貸が必要になった場合、誰が判断できる状態か
認知症が進んだ後に「自宅を売れない」ケースは非常に多く、家族が困る典型例。
早めに名義確認しておくことで、将来の選択肢が広がります。
4. 親の「本当の意思」を確認できる状態かどうか
入院は家族にとってショックですが、同時に「本音を聞ける最後のタイミング」になる場合もあります。
元気なうちでないと、家やお金の話はできません。
家族としても聞きづらい内容ですが、後回しにすると、将来の相続問題や兄弟間の争いの火種になることもあります。
聞いておきたいテーマ
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自宅は将来どうしたいか(住み続けたい/売却/誰かが継ぐ)
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延命治療に対する姿勢
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入院後の生活(自宅介護か、施設か)
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財産の管理方法
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葬儀・お墓の希望
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遺言書を作成する意思はあるか
こうした話は、家族が安心して判断するための大切な指針になります。
話しやすい空気づくりをしながら、少しずつ聞いていくのがおすすめです。
5. 医療費と介護費を抑えるための“公的制度”を活用する
日本には医療費や介護費の負担を抑えるための制度が多く用意されていますが、知らないまま損をしている家庭は少なくありません。
まず確認したい制度
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高額療養費制度(医療費の自己負担が一定額で頭打ち)
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限度額適用認定証(入院中の支払いを軽減)
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介護保険の要介護認定(サービス利用の準備)
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地域包括支援センターの相談窓口(連携をとりやすい)
退院が近づくと、病院側から「介護サービスを利用しますか?」と聞かれます。
慌てないためにも、早めに制度を理解しておくと安心です。
まとめ:入院は“将来の問題を整理するチャンス”にもなる
親の急な入院は、多くの家庭にとって心の準備ができていないまま訪れます。
しかし、この状況は同時に、これからの暮らしや家族のあり方を見直す大切な“分岐点”にもなります。
入院直後はどうしても目の前の対応に追われますが、落ち着いたタイミングで
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お金の流れ
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不動産の管理
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親の希望
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保険の整理
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公的制度の利用
といった基本的な項目を把握しておくことで、家族の不安は大きく軽減され、将来の選択肢も広がります。
特に、口座管理や不動産の名義確認、親の意思の把握は、後々の相続や介護問題と直結する重要なテーマです。
一度きちんと情報を整理しておくことで、兄弟間の誤解や負担の偏りを防ぎ、「家族全体が同じ方向を向く」ことができるようになります。
親が元気なうちに話し合うのは、気まずさを感じることもあるかもしれません。
しかし、話しづらいテーマほど、早く向き合った方が結果的に家族の安心につながります。
今回の記事が、その最初の一歩を踏み出すきっかけになれば幸いです。
そしてもし、どこから手をつければいいか分からない場合は、地域の専門家に相談するという方法もあります。
家族だけで抱え込まず、早めに情報を整理し、サポートを得ながら進めることで、より安心して親の回復に向き合うことができます。
